第三章

 朝がきた。昨夜のことが夢だったかのように思える程爽やかな朝だった。

布団の中からもそもそと這い出ると、母が自分を起こしにこないことに疑問を覚えた。

その後、すぐにKを探しているんだと納得した。

 さて、母になんと言って励まそうか。ニヤニヤが止まらまい。

バージンロードを歩くような気持ちで廊下を歩き、居間に着いたところで私は絶句した。


「おはよう」

 Kだ。彼は生きていたのだ。

 なぜ生きている?昨日確かに殺して捨てた筈だ。あれは夢だったというのか。

しかし、私は見逃さなかった。Kの首にしっかりと残る痕。私の手の痕。

「母は?」

「台所に」

 Kの私に対する態度は変わらない。

やはり夢・・・・・・いや、そうだとしたらKの首に確かに残っている私の手の痕はなんだというのか。

混乱で頭の中が割れてしまいそうだ。 呆然と立ち尽くしている私を見て何を思ったのか、Kは私の隣に歩み寄り耳元で囁いてきた。


「昨晩はお楽しみだったようだね」

ニヤリと嫌な笑い。黒々とした目の瞳孔が開きっぱなしなのに私は気がついて腰が抜けた。

 死んでいたのだ。私が殺す前からずっと。

Kは戦場から生きて帰ってこなかった。だけど今ここに確かにいる。

なぜ?どうして?どういうことなのでしょうか?何か私が間違いを犯してしまったのでしょうか?それともこれは長い夢なのでしょうか?


 私は必死でした。Kが昨晩のことを母に話さないとも限らない。いや、今の問題はそこではない。

Kは人間でないのだから母を襲って食ってしまうのかもしれないという私の妄想と恐怖感が体を動かしていた。

元々座っていた座布団に戻ろうと私に背を向けたK。背中がこちらに向いている。

こちらに、背中が。 私はその無防備な後頭部に置物の壺を振り下ろした。

母が近くにいようがいまいが関係無い。

 陥没した後頭部に何度も何度も壺を振り下ろした。 何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。 気の遠くなるくらい振り下ろすと、弾け飛んだKの肉片と血が畳を汚し、侵食し、家を暗闇の胎内へと戻していく。


「おままごとはもういいのか?」


Kは首をこちらに向けて呟くように語りかけてきた。
黙ってて欲しいのでもう一度振り下ろす。
しかし、Kはニヤリと笑う。
これは恐らく、彼の癖だ。
なぜそのようなことを知っているかというと三ヶ月ほど前に話は遡る。胎内で妄想の中での母との生活を楽しんでいると、彼はやってきた。
そしてさも当然のように居座るので何度も殺し、やっと追い返したと思ったら数日後に再びやってきた。
Kは必ず母の昔の死んだ知り合いで、戦場から雨とともに帰ってくる。

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